昔住んでいた街には「ミラーおばさん」という人がいた。
ミラーおばさん自体は細身で身なりも小ぎれいにしていて、化粧もバッチリしている50代くらいのおばさんなので、普通にしてれば普通の人。だけど、常に手鏡で自分を映している。
ミラーおばさんが、よく自転車に乗ってる姿を見たのだが、常に手鏡で自分の顔を映し、それを見ながら運転していた。なので、自転車は不安定に左右に揺れながら進んでいた。また、スーパーなどでも度々目撃したが、その時も手鏡で自分を映しながら買い物をしてた。その動きは不自然で、急にUターンしたり、立どまったり。とにかく変というか、正直少し不気味だった。
そして、事件は起きた。
その日、僕は駅から家に向かって歩いていたのだが、自転車の気配を感じたので、ちらりと振り返ると、後ろからミラーおばさんが自転車で向かってきていた。暗闇に浮かぶ白塗りの顔は不気味だった。
なぜか、僕は何となく「ミラーおばさんの後をつけてみよう」と思い、携帯をいじるふりをして立ち止まり、ミラーおばさんが通り過ぎるのを待った。自転車はフラフラと左右に蛇行しながら僕を追い抜いていった。
その瞬間、街灯に照らされたミラーおばさんと手鏡越しに目が合ってしまった。「あ、ヤバイ」と直感的に思ったのと同時に、ミラーおばさんはピタっとペダルを漕ぐのをやめ、その場に止まってしまった。
道は一本道で、ミラーおばさんの横を通り過ぎないと帰れない。恐る恐るおばさんの横を通った。もちろん目を合わせないように。そしておばさんの横を通り過ぎる時、耳元でボソっと声が聞こえた。
「わたし、キレイ?わたし、キレイ?わたし、キレイ?わたし、キレイ?わたし、キレイ?」
おばさんの横を通り過ぎるとダッシュで逃げた。自転車が追ってくるのを感じたけど、とにかく全力で走った。やがて大通りに出たので、後ろを振り返ると自転車は遠くに見えた。蛇行していた。それを確認すると再び走ってなんとか家まで逃げ帰った。
ベランダから息を潜めて外の様子を伺った。ミラーおばさんは家の前を通って、先の方にどんどん遠ざかっていった。ひとまずは安心したが、この先が少し心配。
http://cante.la/4e6d755ca6cd25eb2900000e[0回]
http://inakagurashi.sugo-roku.com/Entry/12/ミラーおばさん